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  • 同じ言葉の定義(意味)が、法律によって微妙に違うことがあるのはなぜ?

    こんにちは、ぴよです。

     今日は、おそらく多くの社労士受験生を悩ませると思われる、「法律によって同じ言葉の意味が微妙に違う問題」についてお話ししたいと思います。


    <今日のポイント1>
     言葉の定義(意味)が、法律によって微妙に違うことがあるのは、ひとことで言えば、法律ごとにその目的が異なるからです。


     では、例として、「賃金」という言葉を考えてみます。

     まず、労働基準法では、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されています。

     そして、通達により、例えば、「退職金は、就業規則等により支給条件が明確に定められているかどうかにより、賃金に含まれるかどうかが判断される」ことになります。


     次に、労働保険徴収法でも「賃金」について定義されており、こちらでは、「賃金とは、賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うもの(通貨以外のもので支払われる賃金については、その範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか、所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長の定めるところによる。)」となっています。

     そして、徴収法の場合は、労基法と異なり、「退職金(※)については、前払いされるものを除いて、就業規則等により支給条件が明確に定められている場合であっても、賃金に含まれない。」という扱いになります。

    (※)徴収法上の表記は「退職手当」

     さて、このように労基法と徴収法では、「賃金」の定義が微妙に異なりますが、これはなぜでしょうか?
     社労士受験生としては、「統一してくれればいいのに!」と思うところですが、「これにはちゃんと理由があるんです!」というのが今日のお話です。

     もちろん、社労士の試験は記述式ではありませんから、「どうして労基法の『賃金」の定義と、徴収法の『賃金』の定義が微妙に違うのか?」を答えさせる問題は出ません。

     しかし、みなさんが無事に合格した後、社労士受験の講師をすることになったとして、受講生から、
     「先生、どうして労基法と徴収法で『賃金』の定義が微妙に違うんですか?」
     と聞かれたとき、その理由を説明できる先生と、(意味を理解せずに暗記して合格したため)説明できない先生では、どちらがいいでしょうか?
     ぜひ、今日の「賃金」の話に限らず、色々なことを説明できる先生になってください。(と、えらそうに言えるほど、私も色々わかっているわけでもないのですが...汗)


     では、話を戻しまして、今日のポイントその2です。


    <今日のポイント2>
     労基法の目的は、「労働者を守ること」です。
     そのため、労基法では、「労働者にとって命の次に大事なお金を、使用者に確実に払わせるため、『賃金』はなるべく広く定義して労働者の生活を守る。」ことを基本としています。
     労基法における「賃金」は、「労働者が使用者に支払いを請求できるお金」のことです。


     上記のポイントをもう少し別の言葉で言い換えると、
     「労働者が使用者に『ちゃんと払ってください!!』と請求できるお金は、できるだけ賃金に含める。」という考え方が基本になっている、ということになります。

     これでだいぶイメージできたでしょうか?
     労基法の賃金の定義では、「就業規則等であらかじめ明確に定められていること」が重要ですが、これが大事な理由は、就業規則などに書かれていないと、何を根拠に「ちゃんと払ってください!!」といえるのかがわからなくなってしまうからです。


     では、徴収法に行きましょう。


    <今日のポイント3>
     徴収法の目的は、「労働保険料の金額を算定し、事業主から徴収すること」です。
     そのため、「賃金」の定義は、「そのお金は、労働保険料を算定する際に含めることが妥当か?」という視点で、「賃金」に含める・含めないが定められています。


     先ほど例に挙げたように、徴収法では、退職金については、「就業規則等で定めていても、定めていなくても賃金に含まれない。」わけですが、これは、以下のように説明することができます。

    ① 保険料徴収の公平性
     もし仮に、労基法と同じように「就業規則等で明確に定められている場合は賃金に含める」とすると、「就業規則等で定められている退職金」の場合は労働保険料を支払う必要が生じる一方で、「就業規則等で定められていない退職金」の場合は支払う必要がないことになり、保険料負担の不公平が生じる。

    ② 退職金から保険料を徴収することの妥当性
     退職金は、「退職時に支払われるお金」であり、つまり、その人はその会社でもう働かないので、例えば労災事故が起きる可能性はゼロの人であるので、もし仮に退職金から労災の保険料をとると、「絶対に労災事故は起きないことが確定しているのに保険料だけ徴収する」という状態になってしまう。


     上記のようなことがあるので、徴収法では、「退職金は賃金に含めない。」という取扱いにしているわけです。

     このように、法律ごとに言葉の定義が違うのは、「その法律の目的に沿って、合理的に言葉の定義を決めると、結果的に、他の法律と言葉の定義が違ってしまう。」ということなんです。


     今日は、「法律ごとに言葉の定義が微妙に違う問題」についてお話しさせていただきました。
     少しでも、この記事を読んでいただいたみなさんのご参考になれば幸いです。

    ではまた。